或る秋の日…「愛も闘争もひとやすみ」
11月も半ばになってしまい、秋も足早にすぎてしまうので、今のうちにレビューはあげておきたいと思います。
10月6日に発売された佐野元春のアルバム『或る秋の日』を一ヶ月かけてじっくり聴いてきた。今はこのアルバムを聴くのにしっくりくる季節ですし、アルバムの副題「愛も闘争もひとやすみ」が、今の私に真にしっくりくるのでした。
過去にiTunesのみで配信された、“私の人生” “君がいなくちゃ” “或る秋の日” “みんなの願いが叶う日まで”の4曲に新曲4曲を加えた計8曲のアルバム。iTunesユーザーではない私はこの4曲が発表された時に、Lyricビデオでのみでしか聴けず、ほんの少しだけ悔しい思いをしていた(笑)
しばらくすればアルバムになって発売されるであろう…と、首を延ばして待っていた…あの秋の日(「或る秋の日」リリース2016年)…から、3年待ちました!私の願いが叶うまでに(「みんなの願いが叶う日まで」リリース2013年)6年要しました(笑)
2013年から6年の間にコヨーテバンドでのアルバム「BLOOD MOON」と「MANIJU」の2枚が発売されているのに、そのどちらにも収録はされなかった。
佐野元春というミュージシャンは、シングルCDを矢継ぎ早に発売するタイプのアーティストではない。デビューから来年40年なのに、シングルCDは27枚しか出ておらず、アルバムに関してもデビューから5年間は年1枚のペースで出していたが、その後は2、3年おきになったり、長期のブランクもあった。時間に追われる曲作りはしない。一つ一つの作品(珠玉)を丁寧に作り上げる職人なのです。
何を言わんとしているのか?佐野元春が曲を作り発表する時には、テーマと綿密なストーリーを組み立てながら作るアーティストであるということ。配信されていた4曲とも演奏は今率いているコヨーテバンドでの演奏ですが、確かにシャウトさせるバンドロックとは違う。だからといってバンドサウンドのバラードでもない。
仲間とのセッションの合間に作った曲だから、バンド感ではなくちょっと息抜きにも似た、プライベート感のあるスローソングなのです。どのアルバムにもしっくり合うことのない「とっておき」の曲という感じ。
「或る秋の日」が発売されアルバムの概要にもあったように、一人のシンガーソングライターとして向き合ったソロ・アルバムの色が濃い。そして、ラジオ番組などでのプロモーションでも語られているのですが、様々な愛の物語がこのアルバムの中に収められていました。
2016年11月11日「或る秋の日」が発表になった直後の12月に行われた、ロッキンクリスマスLIVEで演奏され私はそこに居合わせました。その時のこの曲のMC紹介は
「熟年の愛を作ったのはこのジャンルで僕が初めてじゃないかな?」と、笑いをとっていた。
のを思い出しました(笑)
メディアのインタビュアーは、このアルバムを聴いた感想を佐野元春の実体験からきているのでは?とさえいうほど、自叙伝風なラブソング集なのです。
最近のインタビューでも言ってましたが、佐野元春は周辺にいる人たちの生活の営みを見ながら、それらを作品の中に落とし込んでいる。今回のアルバムだけではない今までもずっとそうしてきた。
その時々で見てきた風景そのものを…直接的な言葉ではなく、リスナーの心にそっと入り込めるような仕掛けを詩の中に組み込んで、歌うときにはあまり感情的にならずフラットな気持ちで歌っている。
その元春がこのアルバム「或る秋の日」に関しては、自分の思い出を吐露するような語りかけるような、そんな感情が垣間聴こえたのです。このアルバムを聴いたメディアの関係者も口をそろえて、同じことを言っていた。
あるラジオ番組で曲を作る時の手法について、最近は映画を作る時のような手法という表現をしている。自分は映画監督やカメラマンになりながら一つのストーリーを作りあげると…。
このアルバムに収録されている曲の一つ一つに愛の物語がありました。映画で例えるならオムニバス映画のようなアルバムです。
私の人生
この1曲目は今の私の立ち位置。大人になっても解けない「愛」の謎。それとも悟ったからこその嘆きなのかそういう感じ。
君がいなくちゃ
ふと思い出していた、恋をしていた頃のこと。心の回想。あの頃には戻れないけど心の中にいなくてはならない「キミ」。
最後の手紙
愛した人へ宛てた手紙。もう、しばらく会っていない離れて暮らす家族への贈る言葉。「遺言」に近い大切な伝言。
いつもの空
愛した人がいなくなった日の空。キッチンにいたその人は伴侶なのか?母なのか?悲しみや憂いにおかまいなく「空」は変わらずにそこある。
或る秋の日(Alternate Mix)
かつて愛した人との再会。蘇る愛情と形を変えた愛のカタチ。
新しい君へ
小さかった子供が大きくなってぶつかった恋の壁、「愛」の謎について諭す父の言葉。
永遠の迷宮
こうして「愛」は永遠に繰り返される。確かな答えもみつからないまま、生まれ変わったとしてもRESTARTされるわけではなく、1から謎解きが始まっていくのが「愛」。
みんなの願いかなう日まで
人は皆それぞれに抱えた「愛」があって、物語があって、偶然だったり必然だったりしながら、めぐり逢っている。皆それぞれにいろいろあるけどクリスマスの夜だけは、世界が愛に満ちていますように…祷りの日にしたい。
私一人の個人的なオムニバスストーリーなのに、まるで一つのお話のようになっている。「或る秋の日」は佐野元春が私にくれた、オリジナルラブストーリーなのです。いつも、違った物語を与えてくれるのが佐野元春。
そして、聴いた人の数だけ愛の物語が生まれていたと思うのです。